
ボッティチェリ展とシモネッタ

パリのジャックマール・アンドレ美術館で開催中のボッティチェリ展。

19世紀初頭のブルジョワにして大コレクターであったジャックマール・アンドレ夫妻の邸宅が美術館になったこの場所では、イタリアから移送されたティチアーノの壁画もあり、パリに居ながらにして、イタリア美術を普段から楽しめる。

今回ボッティチェリの作品がこの場所で鑑賞できるという、古典絵画が好きな人には素晴らしい機会となった。もちろんウフィツィ美術館所蔵のヴィーナスの誕生のような作品は来てはいないが、そのヴィーナスのみを微妙にバージョンを変えて描いた2作品や、そのモデルとなったシモネッタ・カッタネオ、美しきシモネッタを描いた作品などが見られる。
ダークカラーの背景の上に白い肉体を見せるヴィーナスはその体を縁取る金髪のうねりと相まってまばゆいほどだ。


そして当時の権力者ジュリアーノ・メディチから最高の愛をささげられたシモネッタの横顔の美しさもさることながら、ひときわ目を引くのはその胸元を飾る首飾りだろう。ローマ時代の印章がこのころリバイバルブームを起こしており、ボッティチェリは本来コーネリアンに彫られた印章をうつしつつ、その当時の女性により相応しい、カメオにアレンジしている。

シモネッタは22歳にして夭折してしまうが、巨匠の手によって、その美貌はこの世に留め置かれ、世界中で賞賛され続けているのだから、こんな幸せな女性もいないのではないかと思うのだ。
