
画家のパレットの庭園 ル・シダネル
フランスを訪れる日本人が必ず訪れるアーティストの庭園と言えば、ノルマンディーのジベルニーにあるモネの邸宅だが、パリから同じくらいの距離で、他にも画家の美しい庭園がある。新印象派のアンリ・ル・シダネルの元邸宅だ。パリから1時間半ほどのピカルディ―の小さな村、ジェルブロワの中心にその庭園は位置する。
1862年8月7日、モーリシャス島に生まれたアンリ・ル・シダネルはフランス北部に移り、1882年にはエコール・デ・ボザールに入学する。印象派や象徴主義の影響を享けつつ、アンリ・マルタン、ウジェーヌ・シゴー、モネ、マネなど多くの芸術家と交流するようになり、彼独自のスタイルを作り上げ、名声を手にしていった。
1900年のパリ万国博覧会のさなか、田舎に移り住みたいとの希望を友人のオーギュスト・ロダンに打ち明けた打ち明けたル・シダネルは、彼の助言でまずボーヴェに住み、近くの村ジェルブロワを見出す。
中世の城塞都市の面影をそのまま残したジェルブロワは百年戦争の舞台にもなったことがあり、いたるところにその荒廃が置き去りにされていた。
サン・ピエール教会の隣に昔の修道女が住んでいた家は、庭と言えば荒れ果てた果樹園があるのみだった。
その家を購入すると、徐々に庭に手を入れ始め、近隣の土地も買い広げていった。
最初に作り上げたのは「白の庭」。そして、薔薇園や「青と黄の庭」などを作り、その間に冬のアトリエや夏のアトリエ、プチトリアノンをモデルにした、庭のあずまやも築いていった。
点描を使った、繊細なタッチとやわらかな色合いで描き上げた多くの作品に、彼の家や庭のテーブルが現れている。
庭を薔薇で満たしたル・シダネルは、村人たちを招いてはその情熱を分け合った。皆に薔薇の苗を分けた彼は、家の前に各自2本のバラを植えることを熱心に勧めた。
それから100年以上経った今、ジェルブロワは薔薇が咲き誇る村として有名で、毎年薔薇祭りが開催され、「フランスで最も美しい村」のひとつにも選ばれている。
画家がパレットに色を乗せるように、区画ごとに同じ色のニュアンスの花々が植えられた周遊庭園は、今も彼の自然への優しいまなざしと、やわらかな画風を伝えてくれる。

マリー・デュエムの描いたシダネル (ウィキペディアより)


